戦略
DX戦略とは?なぜDXを進めないといけないのか
#AI導入
「DX」という言葉が広がりしばらく経ちましたが、読者の皆様はDXの正しい意味をご存知でしょうか?
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、アナログ業務のデジタル化によるフローの改善だけでなく、最終的にはトランスフォーメーション、つまり企業の変革をすることです。
しかし、国内では業務の効率化に留まり、サービスやビジネスモデルなどの変革まで達成し成果が出ている企業が少ないようです。
引用:経済産業省「DXレポート2.2(概要)」 | 6ページより抜粋「バリューアップ(サービスの創造・革新)の取り組み状況」
では、なぜ成果が現れないのでしょうか?
理由の一つに、自社に最適な戦略に落とし込めていない可能性があります。
DXのゴールである競争上の優位性を確立するために自社に合った戦略は何か、戦略を立案するためにはどうすれば良いかをご紹介します。
DX戦略とは
DX戦略とは、会社の全社戦略の一部になります。
詳しく見ていくと、会社の戦略の中には以下のようなものがあります。
- 全社戦略
- 会社全体の方向性を決定づける戦略。
- 事業戦略
- 全社戦略に基づき事業の方向性を決定づける戦略。
- 機能(部門)戦略
- 営業、人事、経理、マーケティング、生産などの部門ごとの戦略。
このように会社の戦略は、全社戦略と連動した予算などの経営資源の配分に基づいて、下層へと降りていきます。
冒頭でお伝えしたとおり、DX戦略の位置づけは、全社戦略に含まれる最重要戦略になります。全社戦略の中でも、どういった位置づけとしてDX戦略を考えればいいかを解説します。
全社戦略は、言い換えると経営幹部が判断すべきことと言えます。
具体的に、以下が挙げられます。
- 全社ビジョンやミッションの決定
- 事業を横断した組織強化(キャッシュや人員)
- 新規の事業投資
- 事業部間でのシナジー
- 事業撤退を判断する
ここにDX戦略を加えるとすれば、
- デジタルを活用して企業価値向上と適切な投資
が入ります。
デジタルを活用することは、例えば、組織強化や新規事業、既存事業の成長に関わりますから、DX戦略は企業の規模に関わらず「経営者」「経営幹部」主導で執り行うものになります。
では、DX戦略が必要な理由を見ていきたいと思います。
DX戦略が必要な理由
1. 業務効率化
DXの効果が見えやすいものが、この業務の効率化になります。
これまで人の手で行っていたことや紙ベースで仕事をしていたこと、または、エクセルなどを使って管理していたことをIT化することで、業務時間を短縮する効果があります。
部門単位でクラウドサービスやSaaSサービスを導入することで、実感できる分野になります。
2. 新しいビジネスの創出
会社の強みやリソースを活用した新しいビジネスを創出することができるのも、DXの強みになります。
例えば、新しいビジネスとして、AIを活用し運転スコアを出して保険料金から割引するサービスや、アパレル企業が実施したリモート機能を使った自動採寸、有名なところだと、配車アプリを開発したタクシー会社などもあります。
日本や海外でも日々、デジタルをかけ合わせた事例が起こっており、新規ビジネスの創出の機会は、DXによって増えています。
3. 生産性向上
生産性とは、製品を生み出す生産性もあれば、社員ひとりひとりの仕事の生産性も挙げられます。このどちらにも貢献できるのが、DXになります。
地方のネジ工場は、ある若手経営者が買収して生産管理をすべてデジタル化したことにより、それまでに比べて生産効率が2.5倍にまで上がって、事業が右肩上がりで成長しています。
生産管理の工程をすべて管理できるツールを導入して、生産本数から検品を経て出荷するまでを数値化したことで、ロス率と生産計画の誤差がほとんどなくなり、迅速な対応も可能となった事例です。
また、リモート環境を整えて出社をしなくても良い環境を作ったことにより、交通費・出張費などのコストカットに貢献でき、社員の満足度が向上したという事例もあります。
デジタル活用によって、これまで必要だと思っていたことをスリム化して無駄を省くことで、会社の生産性の向上に貢献することが可能です。
4. 既存サービスの付加価値を創出
既存サービスを強くするためにも、DXは役立ちます。
例えば、ECサイトでもチャットボットでの会話やオンライン会議ツールで接客を受けて直接商品を紹介してもらえるサービスがあったり、店舗でのオーダーを顧客にセルフで行ってもらったり、マーケティングに活かすデータをAIが分析してくれたりするなどの様々なサービスが登場しています。
一昔前までは、何かの付加価値をデジタル分野で出そうとすると、開発費用がネックになっていましたが、今では限定的な利用に限って安価に始めることができる専門のサービスも続々と登場しています。
既存事業の売上向上・コストカット・顧客満足度アップという点では、導入までのハードルは下がっていますので、デジタルを活用した付加価値の創出もDXを進める大きな理由になっています。
5. 企業内のデータ活用
企業活動をしていく中で、事業部ごと・部門ごとにデータを保有していたり、それぞれで複数のデータを保有していることがあります。
各自のパソコンで作業したデータ(経理データや商品データ、顧客データなど)や作業マニュアルなどの規定文書を電子化したものが社内の共有フォルダなどにアップされたときに、全体に周知されていなかったり、複数人で作業をしていて最新のデータがどれに当たるのかわからなくなることがあります。
こうした事態を避け、これらのデータを情報資産として活かして、企業活動に役立てるのがデータ活用になります。この場合に障害となってくるのが、事業部間や部門間のデータ連携になります。
ただし、この横断的な取り組みができないと、AIやデータ分析人材を活用しようと思っていても企業で使えるレベルまで昇華することができません。
DX戦略では、経営幹部が主導でこの横断的なデータ活用を推進することにより、例えば、マーケティングから営業活動、カスタマーサポートまでを一気通貫に管理することができ、顧客満足度の向上や企業の適切なマーケティング活動の促進につながります。
DX戦略を策定する効果を経営視点からさらに深堀り
経営視点で見たときに、先に挙げた5つの理由にはどのような効果があるかを見ていきたいと思います。
ここでいう効果とは、会社の経営にどのようなメリットがあるかという意味になります。
1. 業務効率化:経費削減
業務効率化によるメリットは、一言で言えば、コストカットにつながることです。
- これまで○○時間かかっていた作業が○○%削減
- ○○人で実施していた作業を半分の人員で可能
- 紙のやり取りでミスや差し戻しがあったものが、ほぼ皆無に
- 各部門の名刺管理が一元化して、管理作業がなくなる
など、様々なものが挙げられます。
一見効果は限定的に見えますが、経営視点で言えば、これらの中でも優先順位の高いものや経営課題により効果が高いものから選んで全社統一のルールにすることで、効果を大きくすることができます。
2. 新しいビジネスの創出:収益基盤の創出
新しいビジネスの創出によるメリットは、売上げアップおよび新規での顧客獲得になります。
配車アプリを作ったタクシー会社の例で言えば、業界全体に影響を及ぼすほどのインパクトがある場合もあります。
とはいえ、新規ビジネスがすべてうまく行くわけではありませんので、限られた予算を決めて、方向性を示し、経営側で管理していく必要があります。
会社によっては、社内コンテストなどで新規事業を募ったり、外部人材を活用した新規事業の創出をしたりする場合もあるでしょう。
経営視点で言えば、闇雲に新規ビジネスを立ち上げるというよりも、経営幹部自らが陣頭指揮をとり、限られた予算の中で工夫しながら進めていくことで、リスクを最小限に抑えて、かつチャンスの際には、アクセルを踏める体制が構築できます。
3. 生産性向上:利益率向上
今後、日本中の企業が向き合わなければいけないのが労働人口の減少になります。生産性向上のメリットは、売上げアップとコストカットの両面につながり、利益率が上がる大事な部分になります。
前章で紹介したように、管理をデジタル化することにより生産ロスを減らしたり、管理人員を縮小することにより製品1つあたりの利益率をアップしたりすることができます。また、社員の働く環境を整えることで、リモートワークなどにも対応して、どこにいてもパフォーマンスを出すことが可能となります。
労働人口が減少する中で、採用にかかるコストも年々増加していくと予想されており、リモートワークに対応している企業では、そうでない企業に比べて、求人応募数も大幅に増加しているという傾向もあります。
経営視点で言えば、生産性を上げていくことは、継続的に人員を確保して、現社員が辞めないための環境整備にも力を注いでいく必要があります。
4. 既存サービスの付加価値を創出:企業価値向上
既存サービスやプロダクトに付加価値を与えていくのもDX戦略の役割になり、そのメリットは、売上げアップや顧客満足度の向上になります。
「既存事業×デジタル」という視点で考えたときに、どんなことが思い浮かぶでしょうか。
- オンライン授業を開放して新たな顧客獲得
- オンラインの薬剤窓口を設置
- ロボットによる非接触型の配膳
など、その事例は業種ごとにたくさんあります。
一見すると小さな改善に見えますが、経営視点で言えば、会社組織をあげてこうした取り組みを実施する必要があります。なぜなら、これらの付加価値の事例を会社全体で共有することで、自分の部門にも改善点があるといった変革の視点が生まれるからです。
5. 企業内のデータ活用:経営判断の加速
企業活動を長年続けていくことで、顧客データ・商品データ・売上データ・キャンペーンデータなどのデータが蓄積されていると思います。
このデータを活用することのメリットは、判断力と決断スピードの強化になります。
- ほぼリアルタイムで販売状況がわかる
- 翌日には売上実績がわかる
- AI活用によりPDCAが回る速度があがる
など、データ活用の実質的な効果は、決断スピードのアップです。決断スピードが上がることで、改善する回数が増えて試行する回数も増えます。
これらがある会社とない会社では、同じ事業年度を過ごしたときに大きな差となって現れてきます。
経営視点で言えば、決断するのが経営の仕事ですから、とても大きなメリットといえるでしょう。
すべての情報を吸い上げる必要はなく、経営に必要な情報をリアルタイムで拾うこともできるので、データ活用はぜひ進めてほしい一手になります。
DX戦略のためのフレームワーク5選
実際に、私がクライアントのDX戦略立案に利用しているフレームワークをご紹介していきます。
ロジックツリー
DX戦略の全体を見渡すうえで活用できるのが、ロジックツリーになります。
全社戦略→事業戦略→機能(部門)戦略の順でロジックツリーを組み、全社戦略で定義した経営課題を徐々に現場まで落としていきます。
この全体像があることで、どの部分の改善のためにDXを推進するかを明確にすることが可能です。
業務フロー図(As-Is→To-be)
"業務効率化"に役立つのが、業務フロー図(As-Is→To-be)になります。
「As-Is」とは現状の状態を指して、「To-be」とはあるべき姿、未来の状態を指します。
現状分析のためにも、まずは、現在の業務フロー図を見える化するところから始めて、その後、どう改善していくべきかを話し合い業務のあるべき姿を描きます。
さらに、変化するまでのアクションプランを決定することで、現在行っている業務が○○カ月後に改善する姿が明確になるので、おすすめです。
アンゾフのマトリックス
"新規ビジネス"と"既存サービスの付加価値"を考えるうえで有効なフレームワークが、アンゾフのマトリックスになります。
縦軸に「市場」、横軸に「製品」をとり、それぞれ「既存」「新規」の2区分を設けた、4象限のマトリクスです。
上図の中で、第1象限と第3象限では、既存サービスの付加価値とは何かを深堀りすることができ、第2象限では、新規ビジネスの創出を深堀りすることができます。第4象限については、よほどのビジネスチャンスが無い限りは、一旦無視をしても良いと考えています。
ECRS(イクルス)
"生産性向上"につながるのが、このフレームワークになります。
あまり聞き馴染みがない方もいらっしゃると思いますが、ECRSとは、Eliminate(排除:取り除く)・Combine(結合:つなげる)・Rearrange(交換:組み替える)・Simplify(簡素化:単純にする)の頭文字を並べたものです。
元々は製造現場で利用されていた考え方になるのですが、これがDX分野でも大変重宝されるフレームワークとなりました。
経理業務を例にすると、下記のようになります。
- 排除(Eliminate)
- 業務をなくすことができないか?
ex) 請求書などを電子化することにより、郵送作業がなくなる。 - 結合(Combine)
- 業務を1つにまとめられないか?
ex) 2回入力していた作業を1回で終わらせる。 - 交換(Rearrange)
- 業務の順序や場所などを入れ替えることで、効率が向上しないか?
ex) システム導入により、人が行っていた請求書のチェック効率が向上 - 簡素化(Simplify)
- 業務をより単純にできないか?
ex) クラウドサービスの導入により、仕分け作業の簡素化
ex) 経費精算システムにより、差し戻し業務の簡素化
さらに、2つ目に紹介した業務フロー図と組み合わせて上記の内容を考えることにより、効果を実感することができます。
DIVA(ディーバ)
"データ活用"に活かせるフレームワークがこのDIVA(ディーバ)になります。
比較的新しい考え方になりますが、データ活用という点において、実際に現場でも非常に効果があると感じています。
- ① 世の中の「事象」から、「生成・収集」によって「データ」が得られる。
- ② データに対して「解釈・分析」を行うと、そのデータが特定の人にどのような意味を持つのかという「情報」が得られる。これは見える化が実現された段階である。
- ③ 情報に基づき「働きかけ」が行われると「振る舞いの変化」が引き起こされる。この振る舞いの変化こそが、見える化止まりを超えて必要とされる価値である。
- ④ 振る舞いの変化を「効用」につなげる際には、一般的な事業上の課題を解決する必要がある。営利事業に限って言えば、競争相手よりも優れた振る舞いの変化であることが必要だ。もちろん、その振る舞いの変化に対してお金の払い手が本当に存在するのか、といった基本的な課題も解決されている必要がある。
出典:鈴木 良介「データ活用仮説量産 フレームワークDIVA」
少し分かりづらいと思いますので、例を持ってお話すると
- ① ある商品がECサイトで売れたとき(事象)に、その人の会員情報(データ)を入手します。
- ② この商品が、誰に・どのタイミングで売れているかを分析すること(解釈・分析)で、40代の男性に売れていることがわかります(情報)。
- ③ この商品を買った「40代・男性」の方々に、興味のありそうな別の商品を進めます。(働きかけ)
- ④ この中には、新たに購入してくれる人、購入しない人、メルマガを解約する人、会員登録を解約する人(効用)が得られるので、それを仮設検証していきましょう。
というフレームワークになります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
DX戦略の必要性と、そのために役立つフレームワークについて紹介させてもらいました。ともすると、DX戦略は、部門の改善や事業部の改善のみと捉えられてしまいますが、私の経験からも全社で取り組むほうが圧倒的に成功の確率が上がります。
ぜひ、会社が継続的に成長するためにもDX戦略に挑戦してみてください。
この記事の著者
日淺 光博
DX専門コンサルティングファーム・株式会社日淺代表取締役社長。DXコンサルタント。2012年に起業。財団法人九州経済調査協会アドバイザー、三越伊勢丹グループ会社顧問などを歴任。DXコンサルタントとして、直近2年間で50社以上のDXプロジェクトに関わり、現在に至る。
著書に「難しいことはもういいんでDXがうまくいく方法だけ教えてください」がある。