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準備を制するものはAIを制する

#AI導入

失敗と理由

幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸である

トルストイ

「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸である」という言葉を残したのは、ロシアの文豪であるトルストイです。
同じようにAI導入が成功した事例はどれも似た内容ですが、失敗した事例はそれぞれに異なる問題を抱えています。そこで、複数挙げられる失敗の要因を一つにまとめると「準備不足」という言葉につながります。失敗の要因は多々あれど、「準備」という一つの対策を行っていれば回避できたのです。
ここで、準備不足による典型的な失敗例を見てみましょう。

失敗例1)トップダウンの弊害

例として、社長が「我が社もAIを導入する」とトップダウンによる号令をかけても、指示が曖昧なので中間管理職や現場としては何をやるべきかがわかりません。そこで、社長にお伺いを立てると指示が二転三転して開発体制は迷走し、中途半端な形に終わります。仮に、中間管理職や現場が主導して進めても、後になって社長から横槍が入ったり、社長が求める結果と異なるという理由で失敗となります。
「会社としてAIで何をやるべきか」を準備しなかったことが、失敗の要因と言えるでしょう。

トップダウンの弊害のイメージ

失敗例2)ボトムアップの限界

別の例として、トップダウンとは逆に現場から進めるボトムアップでAI導入を行えば良いでしょうか。
こちらも途中までは進むものの、現場のみでは予算や権限に限りがあります。必要な予算の手配や他部門との業務・データの連携などができず、会社全体を巻き込むには力不足です。
「現場レベルでのAI導入はどこまでが限界か」を把握しておかないと、中途半端に手間を投じるだけで成果が得られません。

ボトムアップの限界のイメージ

どちらの例でも、結果的に「AIは役に立たない」という悪い印象だけが残り、今後何か新たな施策を行おうとしても「以前にAI導入計画があったが失敗したので……」と、実施前から却下されてしまいます。

準備と計画

AI導入のみならず一般的なシステム開発においても、開発の準備とされる要件定義や仕様策定は重要です。
この準備はエンジニアが開発を行う前に決めるのが原則ですが、この準備をないがしろにした末に失敗する例は枚挙にいとまがありません。
さらに、AI導入は従来のシステム開発と異なり、開発前にどれぐらいの精度を出せるかなどが不明瞭です。そのためPoCなどを行うものの、プロジェクト全体の予算やスケジュールを事前に正確に見積もるのは難しく、データ準備など開発以外の業務も必要になります。
AI導入においては、準備の重要性がより一層求められるのです。

仮に入念な準備を行ったとしても、トップダウンでは経営陣による強力な意志決定権があるので一気呵成に進むものの、現場業務に関する知見に乏しいため具体的な計画立案ができません。
対して、ボトムアップであれば現場業務を元にAI導入計画を立てられるものの、社内における影響力が限定的なので頓挫してしまいます。どちらにせよ一長一短であり、ある程度進めた段階で準備不足が露呈します。
そこで、トップの経営陣とボトムの現場への橋渡しとして、社内システム・IT部門を挟めば良いでしょうか。しかし経営陣が考えるAIと、現場が求めるAIは大きく異なります。経営陣がAIによる人件費削減を進めようとすれば、当然現場は反対するでしょう。そのギャップを埋めるために社内システム・IT部門が計画を立てようにも、要望を実現するために技術や予算の観点も考慮しながら、実現可能な計画を導き出すのは至難の業です。
結局いつまでも、全員が納得する計画は完成せず、見切り発車で計画を進めても失敗するのは目に見えています。

AIにおける会社内の意思統一が難しいイメージ

傾向と対策

ここまで「準備が重要である」と強調するものの、実際には準備を行っても意見がまとまらない様を示しました。
まずは、議論が平行線となる事態を防ぐために、トップダウン(経営)とボトムアップ(現場)の両方において、AIに対するリテラシーを高めることが最初の準備となります。曖昧なイメージや都合の良い解決策としてのAIではなく、長所も短所も条件もある技術としてのAIをお互いが把握することです。
AIでできることやAIの限界を知っておくことで「AI導入」におけるイメージの食い違いを解消して、一方的かつ誤った認識で発生するトラブルを回避します。

経営者と現場担当者とIT・システム担当におけるリテラシーの違いのイメージ

経営者向けのAIリテラシー向上においては、技術的な解説よりも事例、費用対効果、リスク管理などを紹介するのが良いでしょう。
現場担当者向けでは、技術面も強調して「AIで何ができるか」を実践的な内容で学んでおきましょう。さらに、現場に向けては「AIが仕事を奪うのではなく、AIによって人でなくてはできない仕事に集中できる」というメリットを説明して、恐怖心を取り除くことが大切です。人間は自分が理解できないものに拒絶反応を示すので、まずはAIアレルギーを克服しましょう。

ここまでは、AI導入における準備の前段階であり、いわば「準備の準備」となります。社内での立場を問わず一定のAIリテラシーを身につけたうえで、本格的な準備を進めます。

AI導入における準備

ここでAI導入に必要な準備として、下記の要件を挙げます。

AIで何をやるのか

AIで行う課題を設定します。ここでは単純にAIによる業務効率化という題目ではなく、自社業務においてAIで行うべきメリットがあるという根拠を示す課題を前提とします。また、特定の部門や担当者など声の大きい意見ではなく、費用やメリットなどを数字やデータを元に効果を測定できるものを優先しましょう。

成果が見込めるのか

AI導入が成功した場合に、売上増やコスト(金銭的な費用や人員の作業負担など)においてどの程度成果が得られるかを想定します。また、技能継承や安全面の向上など効果が見えにくい部分における成果や、短期に限らず中長期的なメリットも考慮しておきます。

開発を行う人員の手配

PoCや本開発を遂行できる人材を検討します。準備を含めた開発計画において動員される人材において、人数、スキル、作業の割合(専任・他業務と兼務など)を把握します。
人員を自社内で確保できない場合は、外部からの支援なども想定しましょう。また、準備、PoC、本開発、導入の各段階において異なる作業が発生するため、都度必要な人材を入れ替えることもあります。

予算の見積もり

予算については、開発に関わる金額以外にも事前準備となるデータの整備や導入におけるトレーニングなどに必要な費用も想定します。また、計画はPoCで終わったり、本開発において精度向上のため開発期間が延長される場面もあります。こうした例外的な状況において、変動する費用についても考慮しておきます。

開発期間の見積もり

予算と同じくPoC段階で終了したり、本開発の延長が発生した場合の対応策を考慮します。仮に決められた期間内でPoCや本開発で目標達成が難しい場合は、延長できる期間や条件を準備段階で考慮しておきます。開発中止する条件を事前に決めることで、無為に開発が引き伸ばされる状況を回避できます。

データの準備

AIの学習に必要なデータの種類・量を想定します。社内で既に管理されているもの、新たに取得が必要なデータによって、作業量も異なるため注意が必要になります。必要に応じて、既存のデータベースだけでなく、専用のデータベースをクラウドなどで用意することも想定しておきましょう。

技術的な課題の解決

PoCを始める前に想定される技術的な課題(精度を出すのが難しい・試行できる分析手法が限られる・成功事例が少ないなど)について、調査を行っておきます。必要に応じて、他社事例や論文なども調査します。

PoCで成功とする判断基準

PoCを行って本開発に進める基準(精度など)について決めます。基準に達しなかった場合を考慮して、延長できる開発期間を事前に定めておきましょう。また、特定データのみに精度が高いといった問題発生を考慮しても開発に加えて追加調査を行う点なども考慮します。

本開発で成功とする判断基準

本開発において、現場で一定の成果が期待できる基準(精度など)を決めておきます。基準となる目安は、PoCが成功した内容をもとに策定します。基準に達しておらず開発期間を延長する場合や、追加で調査やデータの収集を行う場合も考慮しておきましょう。

導入部門が行う作業の想定

AI開発後、AIを現場で稼働させるために行われる作業について準備します。作業方法の変更、機器の設置、問題が発生した場合の連絡手段などが想定されます。併せて、現場作業員に向けたトレーニングの実施、マニュアルの作成などの作業も考慮します。

上記は一例であり、どの準備をどの程度行うかは状況によりけりです。
また、ここで挙げていない準備が必要な場合もございます。準備段階においては、自社独自の基準を設定しながら試行錯誤も必要になるでしょう。

将来と提言

ここまで解説したように、AI導入において準備は重要です。
さらに、読者の環境によってどの準備をどれだけ入念に行うかが変わってきます。ここでは説明できなかった準備が必要な場合もあるので、注意してください。
また、自社内で検討を開始する前に社内全体のAIリテラシーを向上させる「準備の準備」も計画の成否において鍵となります。立場や業務の違いはあれど、まずは書籍やWeb、セミナーやeラーニングなどでAIについて正しい前提知識を身につけてください。

そこで「AIで何ができるのか?」について、社内の色々な場面で試してはいかがでしょう。
昨今では、ITに詳しくない方でも気軽に扱えるAI開発ツールも増えています。無料や安価で試せるものもあり、まずはAIに何ができて、どんな準備が必要で、どう業務で使いこなすかという計画を立てられるぐらいにAIリテラシーを底上げしながら、準備の準備から一歩ずつ進めましょう。

この記事の著者

マスクド・アナライズ

ITスタートアップ社員として、AIやデータサイエンスに関するSNS上の情報発信において注目を集める。同社退職後は独立し、DXの推進、人材育成、イベント登壇、ニュースサイト向けの記事や書籍の執筆などで活動。現場目線による辛辣かつ鋭い語り口で、存在感を発揮している。
著書に「データ分析の大学」「AI・データ分析プロジェクトのすべて」「これからのデータサイエンスビジネス」がある。

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