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AI内製化の道も一歩から

#AI導入

「内製化」は「無い成果」なのか?

昨今では、社内システムの内製化が話題になっています。社内システムにおいて程度の差はあれど、開発から運用においてSIerなどと呼ばれる外部のIT企業への委託が中心となっています。
AI開発においても同様で、AIを利用する発注者が要望や予算などをまとめて、外注が開発や導入などの作業を行う前提となっています。元々社内システムが外注化された背景として、自社向けに1から開発やエンジニアを社内で雇用することが非効率とされた点が挙げられます。

一見すると、AI開発も従来の外注へ委託する方針が最適であり、あえて内製化する必要性はあるでしょうか。そもそも内製化したところで、結果が出ない「無い成果」では意味がありません。
いざ外注先にAI開発を依頼する場合でも、さまざまな懸念点があります。まずは、AI開発の実績がある外注先の選定です。予算や技術力、開発後の支援体制など必要な条件を満たしているのか判断しなければいけません。さらに、AI開発においては試作段階のPoCで頓挫する場合もあり、失敗した場合も考慮します。
AI開発という多額の予算とスケジュールを投じるプロジェクトでは、外注先の選定によって成功率が大きく変動します。

元々社内にいるIT部門担当者は少人数という企業も多く、さらに上司や現場からの要望などで疲弊していることも珍しくありません。

上司と現場によって板挟みになるイメージ

外注先においても、昨今では人手不足が加速しており、開発プロジェクトにおいて短納期・低予算を強いられる場面もあります。

人材と依頼によって板挟みになるイメージ

このような状況である以上、「外注先に任せれば良いAIが開発してくれる」と安心できません。
AI開発において、発注者側が把握する点は数多くあります。そこで、発注する側がAI開発を指揮しながら、外注先と作業負担を調整できる体制づくりを目指すべきでしょう。

成果は内部人材から生まれる

しかしながら、最初の要件整理からAI本体の開発、導入後の支援まですべて自前で行うのは非現実的です。AIプロジェクトを開始する前に、まずは自前で行うべき業務を洗い出してみます。
IPA(情報処理推進機構)が発表したレポートには、下図のような解説があります。

引用:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査」別ウィンドウで表示します | 29ページより抜粋

この図は、内部から人材を抜擢すべき人材と職種について解説しています。
DXとAIにおける違いはあるものの、紹介されてる「プロダクトマネージャー」と「ビジネスデザイナー」について、内部からの人材抜擢を推奨しています。それぞれの職種について、掘り下げてみましょう。

プロダクトマネージャー
変革意識を持ち課題設定力があり、関係者を取りまとめるリーダーとなる存在。管理職や各部門の中心人物となる人材を任命する。
ビジネスデザイナー
計画の企画・立案・推進を担い、技術と合わせて特にビジネスについて理解している人材。

プロダクトマネージャーやビジネスデザイナーの役割は、社内のどんな業務でAIを使うかを考えて、予算やスケジュールなどの計画をまとめることです。さらに、関係者からの意見の取りまとめを期待されており、AI開発における技術”以外”の分野でも活躍する立場です。
この役割は、社内から人材を抜擢することが内製化のカギです。社内から抜擢する理由は「AIで何をやるべきか」「AIをどう使えば役立つか」という見極めが重要だからです。

高性能なAIであっても、AIが不向きな業務やAIを導入しても効果の薄い場面では、せっかくのAIも役に立ちません。こうしたAIを使いこなすツボは、AI開発を委託する外注先では把握できないので、社内で業務に詳しい人が担当すべきでしょう。

企業において明確なルールが決まっていなかったり、担当する範囲が曖昧な業務があります。
こうしたルールのない曖昧な業務は人間なら対応できますが、判断基準が求められる場面はAIが苦手な部分です。そこで、AIが処理しやすいように新たなルールを設けたり、業務の進め方について社内で調整しながら明確に決められるプロダクトマネージャーやビジネスデザイナーという職務が力を発揮します。

曖昧な指示に混乱するAIと曖昧な指示に対処できる人間のイメージ

あえてプロダクトマネージャーやビジネスデザイナーという技術以外を重視する役職を内製化する理由として、AI開発における技術力”だけ”ならば外部から調達しやすいという側面があります。
AIを開発する場合、一定のルールや要望をとりまとめておくと、AIエンジニアは開発しやすくなります。この開発しやすいルール作りをするうえで、専門知識が必要になります。この専門知識が厄介で、例として生命保険の手続きや自動車のエンジン組み立てなどは一朝一夕で身につくものではありません。もちろん、AIエンジニアに学んでもらうのも大変です。
そこで、会社で働く中で専門知識を身に付けたプロダクトマネージャーやビジネスデザイナーの出番となるわけです。

曖昧な指示に混乱するAIと曖昧な指示に対処できる人間のイメージ

AI開発において技術力は重要ですが、技術以外の問題で頓挫する場合も多いため、職務でAIについて一定の知見を持つプロダクトマネージャーとビジネスデザイナーの役割を社内から抜擢することが重要となります。

まずは他社の事例から

ここでプロダクトマネージャーやビジネスデザイナーを社内から抜擢するにしても、どんな人物をどう選定するかという問題が出てきます。これまでAI導入活用の経験がない企業であれば尚更です。
そこで、最初は先行する他社の取り組みを真似て、徐々に自社に合わせたやり方を反映させつつ、最後には自社独自のAI導入活用の体制を築いていきましょう。

内製化を進めた例として、JR西日本様とドン・キホーテ様の事例を紹介します。

西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)

自社内にデータ分析チームを立ち上げ、人材は社内から抜擢しています。当初は4名のチームでしたが、社内でのスカウトや本人からの異動希望などでメンバーを増やしました。
さらに、メンバーをパートナー企業へ出向させるなどして、新たなスキルを習得しながら現場での対応力を高めています。

新幹線の線路における冬季の積雪量を予測して、除雪作業員を最適な場所と人数に配置することでコストを削減を実現しました。また、自動改札機のデータを収集して故障予測をしたり、日本コカ・コーラやUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)との協業なども行っています。

株式会社ドン・キホーテ

RPAによる業務自動化において、応募した社員にトレーニングを施して開発要員に育成しました。応募したメンバーはIT未経験者も多くいましたが、外注先と協力しながらRPA開発を内製化することで、社内で要望のあった170業務を自動化することに成功しました。

メンバーが自発的に学べるよう、学習教材の充実はもちろんのこと、メンバー同士のフィードバックやプロトタイプを改良し合うといった環境づくりを2年ほどかけて作りあげました。

内製化といっても、0から開発組織を作るためにITエンジニアを採用するのは大変です。そこで、社内で適性や意欲のある人を抜擢しながら、プログラミングなど技術力が不要な部分から自社で取り組める業務を洗い出してみましょう。
特に、AI開発では最初に「どの業務にAIを使うか」「どんなことをAIでやるか」という課題設定において、内製化のメリットがあります。
課題設定においてはAIを開発する技術力よりも、専門的な業務における知識が重要となります。社内から抜擢された人材はこの業務知識に詳しいので、強みを発揮できるでしょう。

そして社内のAI活用を推進する人物として、こちらの記事も参考にしてください。

また、AIの本開発は難しくとも、PoCなどの試作開発を内製化することも考えられます。
シンプルなAIであればGUI操作の開発ツールや、クラウドで提供されているサービスを使って開発することもできます。1からプログラミングをするよりも簡単で、初心者でもトレーニングなどを受講すれば比較的短期間で開発できるようになります。

将来的に本格的なAI開発も内製化を目指す場合は、より高度な人材開発が求められます。エンジニアとしての基本的な能力に加えて、現在外注している会社からノウハウを学ぶ必要もあります。
最初から全て内製化するのではなく、まずは自社の強みを活かせる部分や社内で代行できる簡単な作業を外注先から移管してもよいでしょう。

最初は簡単な業務からでOK

ITエンジニア不足が進む中で、外注先に依存したままではAI開発で影響を受けるでしょう。必要な時期にすぐ開発に着手できなかったり、想定した予算を超過したりなどが予想されます。
こうした状況に備えて、内製化を進めて自社内で対応できる作業を増やしておくと、外注先の負担も減って遅延や予算超過に対処できます。

まずは、初心者でも扱いやすいツールなどを試しながら、AIにおける検討・開発・導入という一連の流れを体感してはいかがでしょう。
人材育成プログラムを提供しているサービスもありますので、ぜひご検討ください。伴走型でサポートするプログラムもあり、ここから内製化のために自社で必要な準備なども見えてくるでしょう。

この記事の著者

マスクド・アナライズ

ITスタートアップ社員として、AIやデータサイエンスに関するSNS上の情報発信において注目を集める。同社退職後は独立し、DXの推進、人材育成、イベント登壇、ニュースサイト向けの記事や書籍の執筆などで活動。現場目線による辛辣かつ鋭い語り口で、存在感を発揮している。
著書に「データ分析の大学」「AI・データ分析プロジェクトのすべて」「これからのデータサイエンスビジネス」がある。

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